インタビュー
フロントランナー「救急超音波診療の魅力と可能性を語る」
瀬良 誠 先生
略歴
平成17年高知大学医学部卒業 社会医療法人近森会近森病院で初期研修
平成19年広島市立広島市民病院麻酔・集中治療科で後期研修
平成21年福井県立病院救命救急センターで後期研修後、現在に至る
救急科専門医
亀田 徹(インタビュアー)
済生会宇都宮病院 超音波診断科
救急科専門医
私は初期研修終了後、救急をするつもりは一切なく初期研修中に特に興味を持った麻酔・集中治療の後期研修を開始しました。当初は麻酔も集中治療も非常に面白く、上司や同僚にも恵まれ、その領域で一生やって行くつもりだったんです。特に集中治療領域はやればやるほどわからないこと、しらないことが多く、麻酔と同様にどんどんのめり込んでいきました。その一方、救急外来で初療を受けた重症患者さんを集中治療室で受け入れて治療にあたっていく中で、初期診療評価あるいは初期治療が十分ではない重症患者さんは、その後集中治療室で急変したり、頑張って治療してもうまく持ち直すことができず亡くなられて非常に悔しい思いをすることも多々ありました。そのような経験から救急外来での初期診療の重要性を非常に認識するようになると共に、「救急医、もっとしっかりせえ!」と心の中では思っていました(笑)。ただ当時から救急の現場は人手不足で、主に現場を回していたのは医師3−5年目の後期研修医で内科や外科の専攻医が数ヶ月単位で出向していました。私自身も後期研修医として麻酔・集中治療研修をしていたので、医師4年目に救急外来に出向しました。驚きましたね、あまりに何もできない自分に(笑)。初期研修の2年間はいわゆる野戦病院で救急の経験を数多くこなしてきたつもりでしたが、その後の2年間ですっかり忘れていたようでした。救急に対して偉そうなことを言っていた自分がいざ救急の現場に出向くと何もできない。これでは偉そうな事言う資格がないですよね、というより恥ずかしい限りです。そこで集中治療をする上でまずは救急初期診療もしっかりできないといけないと思うようになりました。そのような時に出会ったのがステップビヨンド、林寛之先生が書かれた書籍ですね。この本には救急に出向して右往左往している自分が現場でわからないことや知りたかったことが全て書いてありました。この先生に直接学べば自分も救急ができるようになるのではないか、そう考えて現福井大学救急部教授の林寛之先生がいらしたこの福井県立病院でお世話になることにしました。
いわゆるER型救急で有名な福井県立病院で救急医としてさらに研鑽を積もうと思われたんですね。実際にERでの研修はいかがでしたでしょうか。
福井県立病院のERで働き始めた時は本当に困りました。集中治療室の患者さんが発熱すると必ずと言っていい程血液培養(血培)を2セット取っていましたが、救急外来に山のようにやって来られる発熱患者さん全員に血培2セットを取るのか言うと、そんなことはないですよね。この時期だとインフルエンザやコロナの患者さんたくさんいらっしゃいますけど、インフルエンザ疑いの患者さん全員に血培2セットオーダーするわけにはいきません。当初は重症度と緊急度がよくわからない、初期診療として何をしたらいいか、どのようにアセスメントしたらいいのか、戸惑いが多かったように思います。
それまで歩んで来られたキャリアから一旦離れ、ERで研修を開始された時は本当に大変だったんですね。
なんでも診られるようになりたいと思って来たのですが何も診ることができない(笑)。福井県立病院は救命救急センターですがER型救急として1次から3次まで全てに対応しており、小児、妊婦、眼科や耳鼻科、歯科、皮膚科とありとあらゆる科の患者の初期対応を救急でしているので、最初は診療の幅が広すぎて何から手をつけたら良いのか本当にわかりませんでした。
救急・集中治療、ERに特化した診療など、救急医の役割は病院によって異なります。当時から福井県立病院はER型救急で全国的に有名な施設と記憶しております。先ほど救急外来を見学させていただきましたが、精神科や産婦人科の救急対応をされ、眼底を観察されるなど、福井県立病院の救急医の先生方の診療の幅広さに感銘を受けました。また救急外来には、なんと7台の超音波機器が各診療ブースに配置されています。救急外来で幅広く診療をなさる中で、どのようなきっかけでエコー、POCUSに関心を持たれるようになったのでしょうか。

福井県立病院 初療室
(ベッドサイド毎に超音波診断装置あり)
私が福井県立病院に来た当初は、まだPOCUSの概念はありませんでした。一方で日々の臨床で林先生やスタッフの先生達はベッドサイドでエコーを多用していましたので、救急外来でエコーを使うことは当たり前のことと思っていました。当時から腹部と心臓にはもちろんよくエコーしていましたが、それ以外にも胸部を含め、患者さんが痛がる部位には積極的にエコーを当てていましたね。研修当初は病歴聴取や身体診察に自信が持てなかった中で、エコーがその部分を補完してくれて臨床に生かすことができ、エコーが自信を与えてくれたこともあって、エコーを多用するようになったのかもしれません。
現在救急外来ではどのように幅広くエコーを使われているか、具体的に教えていただけますでしょうか。
ショックや呼吸困難ではもちろんのこと、患者さんが痛がるところにはとりあえずエコーを当てています。例えば顔面外傷で目がパンパンに腫れて診察できない時でもエコーを当てれば眼球破裂を診断できます。ほかにも小児の外傷では受傷機転から肘内障なのか上腕骨顆上骨折かわからない時に、エコーをあてれば診断ができます。一般的にはとりあえずレントゲンあるいはCTをとって、それから考えるという人が多いのかもしれません。明らかに転位していればレントゲンでも容易に診断できますが、そうでない場合にはレントゲンの感度はかなり低下しますし、CTにしても正確に読影ができないと容易に見逃してしまいます。CT撮っておけば安心と思っている若い先生も多いですが、そもそもその読影を担うのも夜間休日であれば彼ら自身のことが多いですし、放射線科医の読影にしても若手とベテランではその読影力にも差があります。骨折の診断については私自身がレントゲンの読影に自信が持てないこととエコーの方が診断精度は高いと思っておりますので、まずエコーをあてることが多いです。もちろんエコーで骨折の診断がついてもレントゲンも撮っています。他科や紹介先との連絡の際にやはり共通言語としてレントゲンでの評価があり、長い物には巻かれろというのもER医の立派な役割の一つですね(笑)。
骨折の診断にエコーが使用できるというのは非常に興味深いですが、子供に限らず成人でも言えることでしょうか。
高齢者の転倒では大腿骨骨折、骨盤骨折が非常に多いです。まず患側の股関節にエコーをあてることで、即座に頚部骨折なのか転子部骨折かを診断できますし、そこに骨折がなければ骨盤骨折を疑うことができます。エコーの後にすぐCTを追加するといったdecision makingにも使うことができます。
救急は時間との勝負ですし、多くの患者さんを同時に診療しなければなりません。トリアージとして、この患者さんにとって次に何が必要なのか、迅速に判断するためにエコーは非常に有用ですね。
骨折がその場で診断できれば、場合によってはエコーガイド下に神経ブロックをして、すぐに痛みをとって次の検査に移ることもできますので、患者さんの負担を軽減できると考えています。
神経ブロックもやられるんですね。
ケースバイケースで神経ブロックを行うことがあります。ただ後に診てもらう整形外科医とのコンセンサスが非常に大事だと思っておりますので、よく相談しながら進めるようにしています。
福井県立病院はドクターヘリの基地病院ですね。ドクターヘリではどのようにエコーを活用されていらっしゃいますか。
ドクターヘリでは現場を含め使える医療機器が限られます。ポータブルエコーは使用できる唯一の画像診断機器になりますので、ドクターヘリに従事する医師は皆、日々のヘリ診療で活用しています。外傷患者さんであればもちろんEFASTを行います。その他でも気管挿管の確認もできますし、静脈路確保が困難であればエコーを用いて血管確保ができます。
ドクターヘリではEFASTに限らず、いろんなエコーを役立てていらっしゃるのですね。
ドクターヘリで心肺停止に対応する時も心肺蘇生中に本当に心臓が動いていないのか、あるいは心膜液が貯留しているか即座に確認し、その場でエコーガイド下に心膜穿刺も可能ですので、診断と治療両面でエコーを活用しています。
素晴らしいですね。救急外来とドクターヘリで、全身にエコーをあてて診療で役立てられているお話を伺ってきました。長年救急診療に従事される中で、POCUSを使って印象に深かったケースについて教えていただけますか。
主訴が腹痛でStanford A型大動脈解離、肺塞栓症や呼吸困難の患者さんが大動脈瘤破裂だったりとエコーに助けられたことを挙げるとキリがありません。先日も研修医が嘔吐を主訴に歩いて来院された患者さんに腹部エコーをして「先生、大動脈にフラップがあるように見えるんですけど」と言ってきました。Stanford A型大動脈解離で緊急手術になりました。腹痛もなく腹部所見もない患者によくエコー当てたなと思いましたね。僕だったらエコーしてませんね(笑)。これらのケースは病歴聴取と身体診察からは鑑別に上がらなかったのですが、エコーを使うことで早期に診断し、救命に役立てることができました。もっともそのようなケースに出会うことは珍しくありません。それもひとえに各診療ベッドの横にエコーが置いてありいつでもすぐに使えるようにして頂いているおかげですね。
災害医療でのご経験もお話しいただけますでしょうか。
令和6年の能登半島地震ではDMATとして被災された病院の医療支援に入りました。病院内の通路等の断絶がひどく、患者さんをストレッチャーで運ぶのは非常に難しい状況でした。ベッドサイドですぐに使えるエコーであれば、レントゲンやCTが必要な患者さんでも、例えば呼吸困難の患者さんでは心不全、転倒された患者さんでは骨折とその場で診断でき、非常に有用でした。また被災地での手術が困難となった大腿骨骨折の患者さんを被災地外の手術が可能な病院まで搬送することもあったのですが、先程もお話ししたように、地震の影響で道路状況が非常に悪くあちこちに段差が生じているため、搬送中も縦揺れが多く、骨折の患者さんには非常に負担をかける結果となってしまいました。僕の想像力が足りず、神経ブロックをしてしっかり除痛をしていればこのようなことにはならなかったと反省した次第です。今後も日本では大規模災害が各地で想定されていますが、被災地外への患者搬送に際して循環動態などの安定化の観点からもこのようなスキルへのニーズが高くなる可能性もあると考えています。
貴重なご経験をお話いただきありがとうございます。次にPOCUS教育に関し、福井県立病院での取り組みについて教えていただけますか。研修医への教育はどのように行われているのでしょうか。
以前は心臓、腹部、FAST、ショック、呼吸困難など、10項目程度のレクチャーを1年間かけて行っていましたが、コロナ禍をきっかけにやらなくなりました。と言うのは言い訳でその少し前からFASTくらいしかやらなくなりました。あまり教えすぎるのも良くないかなと思って(笑)。ただ日々の臨床では研修医の先生達は自発的かつ積極的にエコーを使い、FASTのみならず心臓やDVTなど様々な部位の評価に利用しています。教育ってほんと難しいですね、子育て同様にいつもトライアンドエラーです。また看護師さんが末梢静脈路をとれない時に、ルート確保を依頼されエコーを使ってスパッと確保できれば、研修医の先生達も「自分もできたらいいなあ」と思ってくれているようです。(橈骨)動脈ラインの確保でも触診でバリバリ触れるのにわざわざエコー使って穿刺していますから(笑)。やっぱり日々の臨床の中で超音波の有用性を彼らと一緒に共有することが、一番教育効果が高いと思っています。

初期研修医と共に超音波診療中!
(患者さん、研修医にも同意を得て撮影)
振り返りはどのようにされていますか。
当院では救急患者のファーストタッチは救急車であれウォークインであれ基本的には研修医が行います。初期研修開始から半年以上たてば、とりあえず一人であてられるようになります。もちろん知識も経験もまだまだですが、研修医自身がまずエコーで評価しようという姿勢が見られるようになるということです。その際必ず患者さんのIDを入力してから検査を行い、超音波画像を残してもらいます。病歴と身体所見をとってエコーをした後に、上級医へコンサルテーションが必要になりますが、忙しい救急外来で指導医がコンサルテーションを受ける際には5マイクロスキルという手法を用いて対応することが多いです。ご存知のように「診断は何かな?」から始まり、「その根拠は?なぜそう思ったのかな?」と続くやつですね。まず診断や鑑別疾患を聞くことでPOCUSの適応について確認することができます。そしてそれらの根拠、所見を確認する中で保存された超音波画像も確認して必要な部位の画像が保存されているか、保存されている画像でしっかり所見を確認できるか、などを評価してフィードバックを行うようにしています。救急外来では緊急性が高い場合にはID入力や画像保存ができないこともありますが、様々な観点から研修医の先生には時間が許す限りお願いしています。
FAST生みの親でいらっしゃる木村昭夫先生、メンバーの瀬良誠先生たちと一緒に日本救急医学会Point-of-Care超音波推進委員会で活動し、その中で「救急point–of–care超音波診療指針」の日本語版と英語版を作成し、それに基づいて「救急超音波診療ガイド」というテキストを作成し、さらに指導者講習会を開催してきました。創っていく中で楽しい時あり、生みの苦しみの中で一緒に汗を流したことは懐かしい思い出です。今後救急領域のPOCUSはどのように発展していくとお考えでしょうか。
救急point-of-care超音波診療指針では、必要時に実施できる「主要項目」と今後重要性が高まる「付加項目」が区別されています。救急超音波診療の幅の広がりという意味で、今後は運動器や神経ブロックなどの付加項目がどれだけ主要項目に近づくか、付加項目がどれだけ活用されるかが大事になってくるのではないでしょうか。日本はCTへのアクセスが非常に良いため、CTで代用できる領域、例えば腹部領域などでは系統的超音波検査は別としてPOCUSが発展していくことは難しいかもしれません。一方でCTでは代用できない領域、例えば診断としての領域横断的な利用であったり、治療や処置としてのエコーガイド下手技(神経ブロックや穿刺)はニーズも高く、今後も発展していく可能性があると思います。
救急患者さんの負担の軽減という観点で、神経ブロックの意義はいかがでしょうか。
救急の現場の例で申し上げると、例えば肩関節脱臼は我々救急医で整復しますが、特に整復が容易でないケースでは全身麻酔をかけるか、神経ブロックを行うかで特に既往の多い高齢の患者さんへの負担は大きくかわってきます。また創傷処置の場面では、多数の傷一つ一つに局所麻酔を打ち込んでいくか、神経ブロックで一度に麻酔をかけて処置するかで、負担は違ってくると考えております。あとは先程申し上げたように災害医療での患者搬送であったり、外傷時の骨折を含めた疼痛コントロールなど臨床応用できる場面は多いと思います。
日本ポイントオブケア超音波学会学術集会では渡邊至先生が、救急医をはじめ救急診療に従事する医師向けの神経ブロックハンズオンセミナーを企画・開催され、大変魅力的なコースになっていますね。
私もいつも渡邊先生のセミナーを非常に楽しみにしています。学術集会期間中はスタッフとして忙しいですが、時間を見つけてはセミナー会場で勉強させてもらってます。毎回有意義な会で、その道のプロフェッショナルの先生方の手技を見学して直接学ぶことができる非常に良い機会です。
瀬良先生が目指す今後のPOCUSについて教えてください。
そうですね、日本ポイントオブケア超音波学会のレジェンダリーな先生方に少しでも近づきたいですね。畠二郎先生のように腹部を、山田博胤先生のように心臓を、皆川洋至先生のように運動器エコーを活用できて、渡邊至先生のように神経ブロックを至るところに駆使してまさに領域横断的に高いレベルでエコーできるようになりたいですね。そうなれば日々の臨床がもっと楽しくなりそうでワクワクします。
日本ポイントオブケア超音波学会に期待するところを教えてください。
この学会の一番良いところは先程挙げた僕が大変尊敬している4人の先生方をはじめとして、各領域のエキスパートの先生と直接交流できるところですね。こんな学会なかなかないです。学術面でもそうですがハンズオンでも直接指導を受けることができてなんでも質問できる!こんな若手教育の場として実践的なPOCUSを伝えることができる学会があるなんてほんと恵まれていると思います。一方で実臨床の現場でPOCUSを指導できる医師は少なく、特に様々な全身のPOCUSを指導できる医師は非常に少ないという指導医不足は解決すべき問題の1つです。当学会では各領域のスペシャリストが一堂に会していますので、様々な領域のPOCUSを学ぶ機会が持てるというのは、当学会ならではでないでしょうか。またそのような当学会の魅力をどのように若い医療従事者に伝えていくかが今後の課題ではないかと考えます。
学会の方向性について貴重なご意見有難うございます。瀬良先生は教育者としても、POCUSの普及のために、当学会をはじめ様々な場面でさらにご活躍されていくと私は確信しております。今日はお忙しい中、大変貴重なお話を頂きありがとうございました。
福井へやってきました。駅前でティラノサウルスが唸っていたので吃驚しましたが、傍にいた幼い子供達はキャーキャーと楽しそうでした。2025年12月14日現在、福井県立病院におじゃましています。今回は救急超音波のフロントランナーでいらっしゃる救急医の瀬良誠先生にインタビューさせていただきます。どうぞよろしくお願いします。まず伺いたいこととして、どうして救急を専門に選ばれたのでしょうか。